神奈川区
●浦島太郎
 むかしむかし、丹後国(京都府北部)に浦島太郎という名の若者が住んでいました。ある日、海で釣りをしていると、一匹の亀を釣り上げました。すると、その亀は美しい乙姫さまに変身し、太郎を竜宮城へ連れていってくれました。太郎は竜宮城で楽しく暮らしましたが、3年も経つと、家が恋しくなりました。最初は引き留めた乙姫さまも、そんなに恋しいならと、聖観世音像と玉手箱をお土産に持たせ、見送ってくれました。しかし、家へ帰ると、すっかり様子が変わり、太郎も、太郎の家族も知っている人がいません。家族は故郷の三浦へ帰ったのだと思った太郎は、三浦へ向かいました。途中、神奈川で、土地の人から太郎の親も兄弟も三百年前に死んだと聞かされた太郎は、再び竜宮城へ行き、戻らなかったということです。なお、家族を失った悲しさのため、太郎が腰をおろして泣いたという石は「涙石」(その形から「浪石」とも)と呼ばれ、今も成仏寺に残っています。このほか慶運寺や蓮法寺にも、太郎ゆかりの石造物が残されています。
●カッパにもらった皿
 むかしむかし、滝野川という川に数百年も住んでいるカッパがいました。滝野川というのは、権現山の頂きから流れ落ちる滝を源としている川で、一説には「神奈川」の地名由来にもなったとも伝えられています。その滝野川の滝つぽの主であったカッパは、川を横切る東海道に出かけては旅人にいたずらして路銀をとったり、馬から荷物を奪っては馬子を困らせていました。ある日、神奈川宿に住んでいた剣の腕の立つ浪人がそのカッパをつかまえました。すると、カッパは「私には夫がいましたが、去年、大蛇との決闘に敗れ死んでしまいました。残された二人の子どもを養うために、悪いこととは知りながら人様に迷惑をかけてしまいました」と、涙ながらに打ち明けました。「これからは二度と悪いことはしませんから命だけは助けてください。このことがうそではない証拠に、命の次に大切なものを今夜差し上げます」と手をあわせて命乞いをするので、同じような子を持つ浪人は、カッパの身の上に同情して許すことにしました。その夜のこと。約束どおり浪人の家に何かが投げ込まれました。拾ってみるとそれは皿でした。怪訝に思ってよくよく調べてみると、その皿は昼間約束したカッパの夫の頭の皿だったということです。
※出典「市民グラフヨコハマ第111号・民話の里」。一部、改編したところがあります。