港南区
●馬洗川
 上永谷の駅近く、市営地下鉄の引き込み線に沿って、馬洗川が流れています。この川には、かつて小さな滝があり、近くを通る鎌倉みちを旅してきた人々は、ここで一休みしました。冷たい水を飲み、滝つぼで馬を洗い、旅の疲れをいやしたのです。鎌倉時代、夫の源頼朝亡き後、尼将軍と呼ばれた北条政子も、源氏の祈願所だった弘明寺に参拝するため、ここをよく通りました。弘明寺と鎌倉のほぼ中間にあたるので、やはり、一休みし、馬を洗わせました。尼将軍が馬を洗ったことから「馬洗川」と呼ばれるようになったということです。
●文福茶釜
 むかしむかし、笹下の東樹院というお寺に、ある寒い冬の晩、一人の美しい娘がやってきました。「道に迷ってしまいました。すみませんが、一晩泊めていただけないでしょうか」。和尚さんは、温かい食事を用意し、その晩、お寺に泊めてあげました。数日後、また娘が訪ねてきて、お世話になったお礼にと茶釜を差し出しました。和尚さんは、この娘には泊まる場所がないのだろうと思い、しばらくお寺にとどまるようにすすめました。娘はそのお礼にと、今度は見事な絵を描きました。ところがある晩のこと、犬にかみ殺されたたぬきの死骸が見つかりました。そのたぬきは、お寺に訪ねてきた娘と同じ着物を着ていたのです。和尚さんはそのたぬきをねんごろに葬り、娘の描いた絵と茶釜を、お寺の宝にしたということです。残念ながら絵の方は火事で焼けてしまいましたが、茶釜は今も寺に残され、「文(分)福茶釜」と呼ばれているそうです。
※出典「市民グラフヨコハマ第111号・民話の里」。一部、改編したところがあります。