旭  区
●大池にはまったおじいさん
 むかしむかし、おばあさんに野良仕事をやらせ、自分は大池で釣りばかりしているおじいさんがいました。ある春の日、おじいさんは釣りへ行く途中、草むらできつねの昼寝姿を見つけました。「じゃまだ、じゃまだ。ここはおれさまの通り道だぞ」。釣りざおでつっつくと、きつねは驚きのあまり、大池に飛び込んでしまいました。すると不思議なことに、魚が一匹も釣れず、おじいさんが首をかしげて立ち上がったとたんに、あたりは闇夜になっていました。夜道を帰るのは危険なので、一晩泊めてもらおうと、途中で見つけた屋敷を訪ねると、美しい女性が「どうぞ」と招いてくれました。おじいさんが家の中に入ると、ドボーン。気がつくと大池の中に落ちていて、そのほとりで、さっきのきつねが大はしゃぎ。あたりは昼間に戻っていました。きつねに化かされたおじいさんは、それ以来もう釣りはやめ、おばあさんと二人で、野良仕事に精を出し、末長く暮らしたということです。
●乳出しいちょう
 むかしむかし、川井の福泉寺の近くに住む女の人に子供が生まれましたが、お乳があまり出ないので困っていました。赤ん坊はいつもお腹を空かせて泣いています。そこで、福泉寺の仏様に乳が出るようお願いに出かけました。ふと境内にある大きないちょうの木を見ると、幹から垂れ下がる根が乳房に似ているではありませんか。女の人は、これは乳の出に効くかもしれないと考え、いちょうの幹から皮を削り取り、家に帰ってせんじて飲んでみました。すると、とたんに乳の出がよくなり、赤ん坊も元気に育っていきました。この話はあっという間に広まり、子供を持つ女の人たちがこの木の皮を削り、ご利益を得ました。以後、このいちょうは「乳出しいちょう」と呼ばれ、人々の信仰を集めたということです。
●白根不動の竜
 むかしむかし、白根のお不動様が今とは違って、まだ池に囲まれていたころ、この池に、磯子の円海山から大きな竜がよくやってくるといわれていました。ある日、お不動様の神主のところへ、厚木から神主の弟が訪ねて来ました。用事を終えた弟が帰ろうと、中堀川に架かる橋の近くまでくると、橋の下からザザーッという音が聞こえるではありませんか。驚いて橋の下を見ると、大きな竜がお不動様に向かって泳いでいくところでした。そこで弟は、どこへ行くのかと、竜のあとをつけてみました。すると、お不動様のわきで止まった竜は、そこに生えている水草のジュンサイを、おいしそうに食べはじめたのです。ジュンサイをすっかり食べ終わった竜は、中堀川を下って本流の帷子川(かたびらがわ)に出、海を経て、大岡川を上り、円海山へと帰っていったということです。
※出典「市民グラフヨコハマ第111号・民話の里」。一部、改編したところがあります。