港北区
●成仏した竜
 むかしむかし、小机に竜見山という竜(一説には大蛇)がすむ山がありました。この山に雲松院というお寺が建てられ、何代目かの和尚さんが、山のふもとの竜池の近くを歩いていたときのことです。池の中で竜が頭を垂れ、願い事をするようにこちらを眺めていました。その姿を見た和尚さんは「成仏したいのだろう」と、お経を唱えると、竜は見る見る小さくなりました。その竜を寺に持ち帰り、さらに成仏のお経を唱えると、竜は静かに息を引きとりました。なきがらは近くの白山社付近に埋められ、その上に石塔が建てられました。ところがある夜のこと。和尚さんの夢に竜が現れ、こういいました。「おかげさまで竜の身でありながら成仏できました。このなきがらを多くの人に見せてください」。竜の願いを受け止めた和尚さんは、なきがらを掘り出すと、今の東京・市ケ谷にある長竜寺へ届けました。そのなきがらは、寺の宝物として、今でも大切に伝えられているということです。
●鼻取り観音
 むかしむかし、鳥山に三会寺というお寺ができたころ、働きもののおじいさんとおばあさんが、田植えの準備のため、よそから馬を借り、土ならしを始めましたが、なかなか馬が田の中に入ろうとしません。馬の鼻づらの綱を引っぱっても、しりをたたいても、いっこうに動きません。二人は困り果ててしまいました。そのときです。どこからか寺の小僧さんがやって来て、「わたしが、鼻取りしましょう」と、馬の綱を取りました。すると、馬は素直に田に入り、日のあるうちに地ならしを終わらせることができました。そして小僧さんは、名も寺も告げずにどこかへ行ってしまったのです。次の朝、三会寺の和尚さんがお経をあげようと観音様を見ると、その足に泥がついているではありませんか。そして足跡を追うと、あのおじいさんたちの田んぼまで続いていたのです。「馬の鼻取りをやったのは三会寺の観音様だ」という話は、すぐに村人たちに伝わり、それから、この観音様は「鼻取り観音」と呼ばれるようになったということです。
※出典「市民グラフヨコハマ第111号・民話の里」。一部、改編したところがあります。