青葉区
●カッパのわび証文
 むかしむかし、鶴見川の上流の谷本川に、いたずら好きの平六というカッパがいました。ある夏の晩のこと。利作という村人が谷本川のそばの畑を通りかかると、カッパの平六がキュウリをかじっては捨てているところでした。「こらっ!」と利作が怒鳴ると、驚いた平六は、あわててころんで、頭の皿の水をこぼしてしまいました。とたんに元気のなくなった平六は、利作に左腕をもがれ、泣きながら逃げて行きました。その晩のことです。平六が利作を訪ねてきました。「二度と悪さはしませんから、腕を返してください。証文も書きますから」と頼みます。墨と筆を用意してやると、頭の皿の水で筆をぬらし、「以後、キュウリを盗まぬこと誓い候。平六」と書き、手形をペタンと押しました。平六の文字は「平六」という名前だけが立派で、あとは下手でしたが、利作がほめてやると、平六は喜んで帰って行きました。それから平六は、全く悪さをしなくなったということです。
●剱神社
 むかしむかし、荏田(えだ)には、鎌倉へ通じる道があり、毎年陸奥(青森県)から、鎌倉へ炭を売り歩く商人がいました。商人は、毎年、鎌倉の刀かじのところへ炭を届けていたので、刀かじは、おかげで仕事がはかどると、商人に感謝していました。ある年のこと、刀かじは自分のつくった一本の刀を商人に贈りました。大喜びした商人は、国に持って帰ろうと懐にしまい、荏田の泉谷というところまできて、ひと休みしました。そして泉の水をひと口のむと、なぜか酒に酔ったように、その場に倒れこんでしまいました。これは泉谷にすむ大蛇の罠だったのです。そばにある松の木から大蛇が頭を出し、商人をのみ込もうと近づいてきました。そのときです。懐から刀がひとりでに抜き出て、大蛇を切り殺したのです。命が助かった商人は、ありがたいこの刀を荏田の村にまつることにしました。そして、この地に剱神社を建てたということです。
※出典「市民グラフヨコハマ第111号・民話の里」。一部、改編したところがあります。