泉  区
●戻ってきた薬師様
 むかしむかし、下飯田の東泉寺の薬師様は、あるお侍が、鎌倉の永福寺から分霊をいただいたもの。目などの病気を治すほか、十種の福をもたらすといわれ、多くの人に信仰されていました。そのお侍は、この薬師様を守り本尊として仰いでいました。戦に出かけているときは、その武運を守るかのように、この薬師様が夜に光を放ち、村人をびっくりさせたということです。のちには、目の病気や安産、子育てなどのご利益を願う人々で、にぎわうようにもなりました。あるときのことです。盗人が、この薬師様を盗み出しましたが、仏罰を恐れて、藤沢のやぶ深い場所に置き去りにしてしまいました。数日後、夜遅く、この近くを通った村人が、やぶの中で異様に光るものに気づきました。不思議に思って近づいてみると、それは何と薬師像でした。調べてみるとあのとき盗まれた東泉寺の薬師様だと分かり、無事、寺に戻ったということです。
●酒わく池
 むかしむかし、和泉に親孝行な若者が住んでいました。病気で寝たきりの父に、好きなお酒を飲ませてやりたいと、貧しい生活の中、わずかなお金でお酒を買い続けていました。ある日、若者が第六天神社近くを歩いていると、ほのかにお酒のにおいがしてきました。不思議に思い、においのする方へと足を進めると、そこには小さな池がありました。その水をすくって口に含んでみると、なんとそれは上質の澄んだお酒でした。さっそく弁当がらにお酒をくみ、持ち帰ると父に飲ませました。父は満足した顔で、その夜、ぐっすりと寝入ることができました。若者が池の酒を毎日持ち帰るようになったある日のこと。若者の行動を不審に思った一人の男が橋の上で、若者を呼び止め、池のことを聞き出しました。男は、「これで、ひともうけできるぞ」と、池に行き、大きな樽にお酒を入れ始めました。ところが不思議なことに、そのお酒は汲むそばから、ただの水に変わってしまったということです。
※出典「市民グラフヨコハマ第111号・民話の里」。一部、改編したところがあります。