横濱市町名沿革誌「はしがき」

一、本書は�ｸ土誌の一部とし引いては市史の一環となし、市民の愛�ｸ心の涵養に資すると共に事務上の參考となすに便ならしめんとする意をもつて編纂せり。 一、本書は��濱史料調査委員會嘱託弦間冬樹の調査により主として其史料を新編武藏風土記、��濱沿革誌、�~奈川縣公報、��濱市報より採れリ。 一、文中區制施行期日に關しては繁雜を避くるため省略し��濱市沿革の中に記載せり。 一、町界町名整理とあるは、町界町名字界字名變更改稱の略稱なり。 一、舊村落時代の支配者村高等は參考となるべき事あるを思ひ取入れたり、記載なきは史料を缺ける分なり。 一、世帶數人口は昭和十三年十月一日調査表による。 一、町名由來の内には傳説口碑によるものも多し誤りなきを保せず、その他粗漏の點あらば讀者の叱正を乞ふ。

文書課

※本書掲載にあたり、まま原文のとおりにした部分や、
現代文・常用漢字に直した部分なども見受けられます。
私の力量不足故ですのでご容赦いただけると幸いです。
※本文中「★」マーク以下は、
横浜市市民局発行の「横浜の町名（平成８年12月発行：2200 円）から引用したものです。

��濱市沿革

古記舊章を按ずるに、��濱はもと武藏國久良岐郡に屬し石川村と唱へたりしを、後に、��濱、中村、堀之内の三村に分ちたりといふ。その年代は、正保の國圖等にもこの三村を記しあれば、正保以前のことなりと知るを得べし。 　　��濱の地名の、初めて文献に現はれたるは、足利義勝将軍の嘉吉二年の堀之内寶生寺文書にして、その縁起は詳にし得ざるも、石川の台地より横に海中に突き出でし砂浜なるよりも地名発祥せしと伝ふるは捨て難き説というべし。村の広さ東西十丁又は十七、八丁、南北も大抵十八丁程にて、文禄の頃戸数僅に十有三乃ち又四郎、甚三郎、�曉ｺ院外十戸とす。越へて嘉永安政の頃に至り百一戸、三百五十人を算ふるに至りしも之を附近の諸村に比すれば尚寂寞蕭條たる僻落に過ぎず。村民は半農半漁を以って業とせり。 　　此地往古は武藏國府の所管にして、源頼朝の鎌倉府を創設するに及び、其旗下平賀義信守護を以って州守を兼ね、其子朝雅に伝ふ、朝雅誅せらるるや、北條時房之れに代り、爾後大内惟義、大江親廣、足利義氏、北條泰時、北條經時等州守と成りて之れを管す。建武中足利尊氏叛するに及び、其子義詮鎌倉にありて、当国を管領す。既にして義詮の弟、基氏関東管領と成り、当国を領し、其衰ふるに及んで執事山内上杉氏に移り、後ち扇谷上杉氏の所領と成れり。小田原北條氏勃興し関東を攻略するに及んで、足利氏の族、吉良右兵衛佐頼康を久良岐郡蒔田に置き、傍ら近地を領せしむ、之れを蒔田の御所と称す。旧��濱村の地は、蓋し其領内に属せしなるべし。天正十八年北條氏豊臣氏の為めに亡され、後徳川氏の版図に入り代官をして之を管せしめ其内六石一斗余の地を村内秀閑寺領に寄附し、更に元禄十一年此村の地を割きて旗下荒川丹後守の知行とす、安政二年代官所の地を以て肥後藩主細川越中守に属せしめ、戍衛を置て海陸防備に備ふ、蓋し嘉永以来外艦たびたび近海に来るを以てなり。安政四年外国と条約締結の議内決するに及び、細川氏の戍を撤し、復び幕府に直隷し代官をして管せしめたりしが、同六年七月全村地域を神奈川奉行の所轄となせり。 　　是より先き米艦渡来により鎖国の永夢より醒めたる幕府は、翻然門戸を開放し、米、蘭、露、英、仏等の諸外国と通商条約を締結し神奈川を開港場と定む、其実際は��濱を以て要衝とし、安政六年六月二日を以て開港せり。ここにおいて村内民家を山手寄りに移し、全村地域を二分し、東寄を外国人居留地に充て、西を内国人街とす。斯くて諸外国人を始め、本邦商民の移住貿易を許せしより、恰も洪水の如く押寄せ競ふて居を構へ通商貿易の業に従事せり。素より狭隘なる��濱の地は忽ちにして之等移住者を収容すべき寸地なきに至り、周囲の海面沼地を埋立て須臾にして市街地を構築せるも忽ちにして商売櫛比し、更に次第に外方に向って暢展し其停熄止する所なき有様となり、是において野毛浦吉田新田等の海沼も残りなく埋築して市街地となす。斯くて苫屋の煙立ち昇りたる一寒村は一躍其名を世界地図上に烙印せしめ、欧米文化輸入の第一関門と変じ、遂に明治二十二年四月一日市制を施行して��濱市と改称せられたり。是れ実に開港後三十年なり。最初の町数五ケ町は八十二ケ町となり、これに居留地諸町を加ふれば百三十八箇町を算ふるに至れり。活発なる発展は愈々加はり、明治三十四年四月一日隣接町村を合併して以来、同四十四年四月一日、昭和二年四月一日、同十一年十月一日、同十二年四月一日の五回に渉りて隣村部落を編入し、昭和二年十月一日区制を制き、鶴見、神奈川、中、保土ケ谷、磯子の五区に分つ、今や町数三百四十三を数へ其地域は旧久良岐郡の全部、橘樹郡の大部、都筑、鎌倉二郡の各一部を包括し旧村落百十三ケ町村の上に��濱の名を冠したり。其面積一七三、一八粁、世帯数一六三、三八〇、人口七七七、五〇〇を算す、更に今また隣接村落合併の気運醸成せんとす、之れが実現せば其面積において東京市に次ぎ、六大都市中第二位の面積を持つに至るべし。 　　尚この間、大正十二年九月一日関東大震災に二萬三千余の市民を奪ひ去られ、市街は一瞬にして灰燼に化し、荒寥たる廃墟となりしも、災後六ケ年遂に復興を完成して災前に優れる近代的港都を大成せしめ得たり。本市発達の道程を回顧すれば、僅かに数十年の短年月にかかる膨張を見たる、実に異数と言ふも決して過言にあらず、今や多数の大工場各所に林立し、昔の苫屋の煙は大煙突の煙と変じ、工業港��濱の威容を誇るに至り又昭和十二年外国貿易輸出入合計十八億四千七百六十萬二千円、内国貿易総額十一億八百七十九萬五千円を算へ大��濱市の躍進愈々顕著なるものあり、更らに今後の発達も停止するところを知らざるべく、市運の隆昌期して待つ可きものあるべし。

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