調査問答01
   緒  言
 国勢調査に関する法規の制定実施せらるゝや、或は之れが解釈に対するの疑義を生じ、或は実地取扱上に於て左支右吾を来し其の処断に苦しむものあり。乃ち各府県道庁の当事者は其の都度之れを臨時国勢調査局に質問して意見を徴し、其の指示に本づき処理せしえお以て、千態万状複雑極りなき調査事務をして誤謬又は脱漏重複の過失に陥ることなかりしなり。今其の質義応答数百件を彙蒐して左に叙列す。庶幾くは以て他日の参考に資するに足らんか。
   世  帯
別に住居を有する者は一世帯とすの程度範囲
同一構内又は一棟の家屋内に在る家族親族互に分房して各別に家計を立つるもの又は家計(炊爨)を共にするものは各別世帯と見なすべきや>北海道
同一構内又は一棟の家屋内に在る家族分房(住居を別にすること)して各別に家計を立つる者は各一世帯なり又家計を共にするも別に住居を有するものは各一世帯なり但し同一構内又は一棟の家屋内に於て単に居室を異にするが如きは各別の世帯に非ず
別に家計を立つるものは一世帯とすの程度範囲
家計とは炊爨を共にするものと解釈すれば準世帯の寄宿人、下宿人も亦普通世帯の一員となるにあらずや
又経済を共にするものと解釈すれば一家族中と雖経済を異にするものは全部別世帯となるに非ずや>北海道
家計とは家事経済の謂にして必ずしも炊爨を指すに非ず
旅店、下宿屋等は器械的に之を準世帯と定めたるものなり
一家族中と雖全然家事経済を異にするものは別の世帯なり
煉瓦製造販売業たる某煉瓦株式会社所有の運送船中運搬夫たる世帯主及妻子は其の船内に居住し主人の母は老年なるが故陸上の家屋に起臥せしめ飲食物は船中より供給する者あり是等同一調査区同一家計なる場合は合して一世帯と見なし申告せしむべきや又は老婆の方は世帯主不在の例に準じ別に申告せしむべきや>栃木県
船内と陸上とに別箇の住居ありと認めらるゝ程度のものなるときは各別の世帯にして単に一方の住居の延長と認むべき程度のものなるときは一の世帯なり
別箇の世帯なる場合には老母が一方の世帯主なり
住居を有する者にして其の住宅以外に別に工場を有する者あり業主、雇人等は常に工場に在りて職業に従事し業主は住宅にて起臥飲食を為すを例とするも独り雇人に在りては住宅にて飲食を為すも工場にて起臥するを常とせり此の如き場合に於ては雇人は工場にて起臥せるも常に飲食等の為住宅に往来せるものなるを以て右等は十月一日午前零時の現在に於ては他の者が宿直等の為世帯なき場所に在りたる者の例に準じその住宅に帰るべきものと見なし調査すべきものなるや>奈良県
単に寝室が工場内に在るに過ぎざる故業主の世帯員として記入すること
同一人が住居と家計とを異にする場合は各一世帯とすべきや仮令ば或る工場の使用人が常に工場に於て起臥し食事は工場主の家庭に於て為す場合の如し>北海道
単に寝室が工場内に在るに過ぎざる故工場主の世帯員として記入すること
独身者にして一定の世帯を有せず本業は町村書記にして副業として銀行の宿直をなすものあかり然して銀行に一夜役場に一夜と交互宿直を為しあり何れより申告すべきや>愛知県
調査の当夜宿直したる場所に世帯ありたるときは其の世帯の一員として申告し世帯なきときは宿直したる場所に単独の世帯あるものとして申告すること
左記の場合は別に一世帯とせず世帯主の申告書に記入し差支なきや
(イ)老夫婦隠居し食事は共なるも其の他の経済は一切別なる場合但し居所は同一家族内に居る者と主家の附属建物中に居る者との二例あり。
(ロ)世帯主の弟にして世帯主と経済を異にせる場合但し食費若干世帯主に支払うものと全く支払はざるものとあり>新潟県
各別の世帯とせざること
大商店にして多数の雇人を有する世帯に於て主人及其の家族のみは別の場所に住居し店員のみ商店に居住するも其衣食等は主人より給せられ主人と家計を同ふするものあり店員等の住居は下宿其他家計を共にせざる者の集合にあらざるを以て準世帯と認め難きが如し此場合は二箇の普通世帯と解すベきものなるや果して然らば店員等の方は世帯に於ける地位は如何に記入すべきや>東京府
二箇の普通世帯とし商店に於ける者の世帯に於ける地位は「雇人」と記入すること
元家族中戸籍上分家したるも現在本家に家族と共に同居し家計を共にせる者に付ては如何に記入すべきや>兵庫県
本家の世帯に属する者なるが故に本家の申告書に記入すること
左記の場合は之を一世帯と看做し可然哉
(イ)調査日時現在市町村内の仮小屋に行旅病人一人ある場合
(ロ)調査の日時現在市町村内の或る個所に数人の浮浪人が寄宿せる場合
(ハ)(ロ)の場合は普通世帯なるや又は準世帯として扱ふものなるや>広島県
(イ)の場合行路病人収容所たる仮小屋ならば一の準世帯とし然らざる場合は一の普通世帯とすること
(ロ)場合は一の準世帯と看做し取扱ふこと
某料理店(甲調査区)の女中にして乙調査区内他家の一間を借り受け飲食は主人方にてなし毎夜午前一時頃帰り単に起臥のみを為す者は雇人として料理店主より申告すべきや又は単独普通世帯として女中より申告すべきものなるや>栃木県
十月一日午前零時に主人の世帯に在る者は別に自己の世帯の有無に拘らず主人の世帯に於て申告すべきは勿論なり
統計主任会議に示されたる所に依れば施行令第三條第五項の下宿屋は所謂下宿営業者として許可を受けたるものゝみを指称せるものなるも調査上一々許可の有無を調ぶるときは自然調査を忌避するの傾向を生するの虞なしとせず故に右施行令の下宿屋とは許可の有無に拘らず即ち素人下宿も包含するものとして取扱ひ得ざるや>神奈川県
公然下宿屋と称するものは許可の有無を調ぶる必要なし素人下宿は下宿屋に非ず
三月五日官報彙報欄申告書記入心得、世帯の項第十一に「素人下宿の下宿人は別の準世帯としない」とあり左の場合は如何にすべきか
一、甲なる者乙なる家の一室を借り受け其の家より賄を受け月月一定の対価を支払ふとき(所謂素人下宿の下宿人)は乙なる普通世帯の一員即ち同居人となすべきか又は家計を別にする者と認め別箇の普通世帯となすべきか>山口県
素人下宿の下宿人は其の普通世帯の一員として記入すべきものにして別箇の世帯とせざること
旅店、下宿屋の場合は自家の家族雇人等を記載したる次に寄宿人、宿泊人等を記載すべき義なるや又は自家のものとは別記に寄宿人、宿泊人のみを申告する意味なるや>兵庫県
旅店、下宿屋の家族雇人は営業主と共に之を一普通世帯とし宿泊人、下宿人は之を一準世帯とし各別の申告書を作成すること(三月五日官報彙報欄申告書記入心得世帯の項第七号参照)
下宿屋にあらざる家に寄宿せる官吏の如きものは単身者と雖一世帯として調査し学生の如きものは来客の例に準じ其世帯に加へ記入すべきか>兵庫県
下宿屋に非ざる家に寄宿する者は官吏たると学生たるとを問はず其の世帯の一員とすること
旅店、下宿屋等にては営業の主人及其の家族雇人等の集りは一の普通世帯として(官報彙報世帯の七)申告すべきものゝ如く又宿泊人、下宿人の次に事務員、雇人等を記入するものなるが如く(官報彙報氏名の二)(同上世帯に於ける地位の二)も解せらる事務員、雇人は何れに記入すべきや(官報彙報世帯説明の二と氏名の二、世帯地位二と抵触するが如く解せらる)>愛知県
官報彙報欄申告書記入心得第七号は旅店、下宿屋等の雇人等は営業主其の家族と共に一の普通世帯を成すものなることを示し同氏名の第二号は寄宿舎、病院の事務員、雇人等にして他の世帯に属せず寄宿舎、病院等の準世帯に属するものある場合に於ける記入の順位を示したるものなり
準世帯(旅宿業)に於ける宿泊人に付ては営業者の家族と各別紙に調査記入すべきものなるや>兵庫県
旅店の宿泊人は合して一の準世帯を成し営業者及其の家族雇人等は一の普通世帯を成すを以て両者各別に申告書を作成すること(三月五日官報彙報欄申告書記入心得世帯の項第七号参照)
(イ)素人下宿の家に賄料を支払ひ数人下宿する学生生徒は家計を異にするものなるを以て普通の一世帯と為し各自に申告書を交付し記入申告せしむべきや
(ロ)芸妓、娼妓、酌婦中には自前持と称し衣食費を自弁し只単に同居営業する者あり是等も前項の如く別の世帯となすべきや
前二項の場合に別の世帯と為さゞるときは世帯に於ける地位は同居人とすべきか他に記入の称呼ありや>三重県
(イ)素人下宿の世帯員とし別箇の世帯とせざること。
(ロ)別の世帯とせざること。
素人下宿の場合は「同居人」芸娼妓の場合は便宜「雇人」とすること
旅店に於て一時的に間借自炊を為す者は準世帯とするや又は普通世帯とするや>熊本県
明に普通世帯ありと認むべきものは一時的と雖準世帯に属せ官報彙報欄申告書記入心得世帯の項第九号参照)
軍人又は勤人等にして家族と共に旅人宿又は下宿屋の一室を借り受け一見普通の世帯と何等異なる所なきも業主より賄を受けつゝあるものあり此れ等は勿論準世帯とすべきは当然の如くなるも租税の関係夫婦共稼住宅払底等種々なる事情の為め実際一戸を構ふべき性質のものにして構へざる者甚だ多し此れ等は其の性質に依り普通世帯として差支なきや又素人家の一室を借り仕出屋より賄を受けつゝある者及家主より賄を受くる者も同様に解し差支なきや>新潟県
明に別の普通世帯と認めらるゝものゝ外は準世帯員又は素人屋の世帯員とすること
温泉場の自炊浴客は普通世帯とするか>北海道
明に普通世帯と認めらるゝものゝ外は温泉場の準世帯員とすること
教会所に籠り各自自炊をなすものあり是等は悉く普通世帯として調査し可然哉>鳥取県
一の準世帯とすること
学生又は勤人にして数人共同にて一家又は一室を借り受け共同自炊を為す場合は各自順番に自炊すると或は下女を傭ふて炊事せしむるとを問はず準世帯として差支なしと思惟するも素人家の一室を借り共同自炊を為す場合は合宿所と看做し準世帯とすべきや否や>新潟県
数人共同して一家を借り受け自炊する如き場合は準世帯とし一室を借受け自炊する場合は普通世帯とすること
六月十七日甲八八号の二申告書記入方質疑解答追加「世帯」の御答の要旨は数人共同して一家を借受けたる場合と一室を借受けたる場合とを区別せられあるも本問の場合は単に住居が一家なると一室たると異なるに不過して其の他の生活状態は差別なきが如し之を普通世帯と準世帯とに区別すべき事由御示相成度>宮城県
一室を借受け共同自炊するものは素人下宿の下宿人の如くに相似たるものあり且其の人数も少かるべきを以て普通世帯となすを適当なりと認めたるに由る
学生又は勤人等にして間借自炊の場合は単独にても普通世帯なる点に於ては疑義なきも下宿屋等に依りては殆ど間借自炊の所あり此れ等は間借自炊者全部を一つの準世帯として差支きや>新潟県
然り
二人以上(二三名或は十数名の者)共同して一戸を構へ下女を雇入れて賄を為さしめ其費用を各自均等分担するものは之を準世帯として取扱ふべきものなるや>東京府
然り
寄宿合、病室、行旅病人収容所、合宿所の類は一校、一病院、一収容所又は一会社に属する毎に一の準世帯を構成するものにして一棟、一構内又は一室毎に一の準世帯えお為すものにあらずと認むれども為念御意見承知したし>神奈川県
同一構内に於ては棟数の如何を問はず寄宿舎、病院、収容所、合宿所等種類名称を異にする毎に一の準世帯とすること
準世帯の一場屋の意義に関し例へば一構内に寄宿舎五ケ所あり五ケ所共管理者ある場合は一ケ所一世帯となすべきか将た一構内を一世帯となすべきか>岡山県
同一構内に於ては棟数の如何管理者の員数に拘はらず種類名称を異にする毎に一の準世帯とすること
貧民又は孤児等を収容し慈善的事業を営む者の業主及家族は普通世帯として可なるも被収容者は如何に取扱ふべきや>愛知県
被収容者の一団を一の準世帯とすること
乞食等事実橋下其の他に居住し居たるとき右を準世帯又は普通世帯として番号札を貼付すべきものなりや又は番号札を貼付したるものとして取扱ふべきものなりや>島根県
居住すと認むべき所には世帯番号札を貼付すること
十月一日午前零時芸妓寄留所(芸妓を合宿せしむべき県の規定)に在り日出後抱主の家に帰りたる芸妓は同寄留所に於て準世帯の形式を以て申告すべきや又抱主に於て世帯の一人とし申告すべきや>富山県
単に寝室か芸妓寄留所に在るに過ぎざるものなるときは抱主の世帯員として記入すること
貸座敷、置屋に在る娼妓、芸妓は之を営業主又は其の他の世帯主の世帯に属するものとし遊客は之を準世帯として取扱ひ可然や>神奈川県
然り
貸座敷、料理店に於て申告するとすれば準世帯の一員とすべきや普通世帯の一時宿泊人とすべきや>北海道
貸座敷、料理店に於ける営業上の客の類は之を一の準世帯とすること
貸座敷に於ける遊客を準世帯と為さゞる理由を示されたし>三重県
貸座敷に於ける遊客は準世帯員なり
患者を収容する医院は下宿業と同様普通世帯と準世帯と二通の申告書を要する義なるや而して事務員、薬剤師、看護婦等は普通世帯に記入して可なりや。
右医院内の一室を借り受け患者の家族付添人として患者と共に自炊する者は準世帯として可なるや又は普通世帯なるや>広島県
病室を有し患者を収容する医院に在りては患者及付添人等を一の準世帯とし医師の雇人たる事務員、薬剤師、看護婦等は医師の世帯の一員とすること
後段の場合は準世帯として取扱ふこと
病院内病室に於て病人以外に家族全部同宿し自炊し居るものは普通世帯とするか>北海道
病院の準世帯員として取扱ふこと
病院付添看護人病室に於て自炊し居るものは普通世帯とするか>北海道
病院の準世帯員として取扱ふこと
病院勤務の事務員、受付、門番等の係員が病院内にて起臥飲食しつゝある場合に於ては申告書記入心得(世帯に於ける地位の二)に依り申告すべきものなるも若し係員等自己の計算にて(数人共同自炊)飲食する者ある場合は別に申告すべきものなるや>愛知県
事務員、受付、門番等の係員が病院の準世帯に属する場合は病院の申告書に記入せらるべきは勿論にして其の世帯に於ける地位の記入方は申告書用紙世帯に於ける地位の二に依るものなり、然れども係員等が別に附属建物等に於て共同自炊する者は別箇の準世帯とし別の申告書を作成すべきものとす
 左記場合は記入心得第十二に依り普通世帯として取扱ふは至当の如くなるも当地方に於ける病院の入院患者及温泉場の浴客は殆ど一室に自炊しあるの状況なり之を以て普通世帯とするときは実際の世帯数に変動を来すを以て準世帯として差支なきや
(イ)病院の入院患者にして付添人と共に一室に自炊しある場合
(ロ)温泉場の浴客にして一室に自炊しある場合及其の他木賃宿の如く一時的の宿泊にて自炊せる場合>新潟県
(イ)病院の準世帯員として取扱ふこと
(ロ)明に普通世帯と認めらるゝものゝ外は準世帯とすること
施行令第三条の船舶と調査員心得第十条及第二十条の舟筏とは同意義と解し差支なきや>富山県
国勢調査施行令第三条の船舶は大型の船舶にして準世帯の在するものを想像し国勢調査員心得第十条及第二十条の舟筏は普通世帯の存する小舟の類を想像して用語を区別したるものなり
 ※歴史資料の性格上、差別的な意味を持つと思われる字句・表現を、原則としてそのまま掲載してあります。これらの字句・表現に接することで、差別の不当性、偏見やタブーが、当時(大正11年10月)から今に至ってもなくならない現実を見つめるきっかけになればと願っています。