美談逸話02
   京 都 府
 久世郡書記佐々木晋氏は同郡国勢調査主任として極めで熱心に日夜奔走尽力して健康を害したるをも顧みず。責任を完ふすべく町村提出書類の検査中病床に臥し遂に其の結果を見ること能はずして職に殉したるは詢に哀悼に堪へざるなり。
 葛野郡書記黒崎伊七氏は同郡国勢調査主任として日夜励精或は宣伝数へ歌を作り、或は申告書を拡大して掲示ビラを製し、又はスタンプ印を考案し、之を同郡のみならず他郡へも與へて宣伝の具に供したるが如き、其の調査上に及ぼしたる効果は実に鮮少ならざるべきを認むるなり。
 天田郡福知山町書記篠木玉治氏は唯一の係員として同町の国勢調査事務を双肩に荷ひ、町内二百余名の調査員及ひ補助員を指導督励し、寝食を忘れて熱心に尽瘁したる態度は他の模範となりしのみならず、市街地として比較的調査の困難なるべき同町の成績が反って良好なりしは其の功労に帰すべきもの多しと云ふ。
 天田郡惇明尋常高等小学校長中島?三郎氏は国勢調査員を兼ね、福知山町の国勢調査の為め熱心に尽力したるが、宣伝講演会及び活動写真会等にには毎回出席斡旋し、殊に自校教員を督し児童をして盛んに宣伝唱歌を高唱せしめ或は旗行列を行ひて町内の調査気分を緊張せしむる等、平素輿望ある同校長の努力は一般に多大の感化を與へたり。
 天田郡福知山国勢調査員石原萬之助氏は其の任命を無上の光栄とし、其の任務を完ふすべく率先して担当区域内に宣伝講演会を開催し、或は大形申告書記入例を掲示板に掲示し、或は区域の児童を集め毎夕高張提灯を先頭に宣伝唱歌を高唱しつゝ区内を巡回せしめ、或は印刷物を毎戸に配付する等、各種の工夫を凝らし以て宣伝に尽瘁し、自費を投じたる額も亦た少からず、為めに一般調査員の模範となり他を激励したるの功甚だ大なり。常時乞食浮浪人等の調査を厄介視するものあるを耳にするや若し斯るものあらば喜んで引受け取扱ふべき旨を吹聴して尽く之れを実行したりと云ふ。
 京都市下京区第三十五学区内国勢調査員杉田恒次郎氏は金光教布教師なるが、特に幻燈を利用して国勢調査講話をなし以て宣伝に努めたり。
 葛野郡川岡尋常高等小学校長鈴木岩人氏は国勢調査宣伝の改良音頭及び子守唄を作り私費を投じて印刷に附し同郡内は固より郡外及び他府県よりの希望に応じ汎く之れを配付したり、而して其の音節等は直接に子守又は音頭取に授けて専ら之れが普及を図りたるが、特に改良音頭は当時の盆踊に流行したる地方少からず、其の宣伝上に及ぼしたる効果は実に見るべきものありき。
 ※歴史資料の性格上、差別的な意味を持つと思われる字句・表現を、原則としてそのまま掲載してあります。これらの字句・表現に接することで、差別の不当性、偏見やタブーが、当時(大正11年10月)から今に至ってもなくならない現実を見つめるきっかけになればと願っています。